何を言われたのか、すぐに理解ができなかった。だって、そんな、夢みたいに都合のいいことが現実に起こるわけなんてないのに。
「……え?」
なので、馬鹿みたいに聞き返してしまった。无限大人は肩を揺らして笑う。少し離れたところで若水姐姐が見守っていて、いつの間にか雨桐やら他の妖精たちやらが集まっていることに気付いた。
なんだろう。なんだろう、この状況は!?
「ええっと、えっと、あの!」
「うん」
「あの……っ、なんでそんなこと言うんですか……」
恥ずかしくなって顔を片手で覆う。もう片方の手はしっかり握られてしまっていて、振り払うなんてできなかった。
「すまない。君が日本に帰るのを引き留めたくなくて、黙っていたんだ。だが、こうして今君は戻ってきてくれた。だから伝えたんだ。いまさらかもしれないが……。君の気持ちも聞かせてほしい」
「えっ、ええっ、えぅ……!」
何も言葉が出てこなくて、ただただ恥ずかしさに肩を縮める。こんなところで言うなんて、できない。
「恥ずかしいです……!!」
なので背中を向けようとしたら、むしろ引き寄せられてしまった。
「じゃあ、二人になれるところへ行こう」
「えっ」
无限大人に手を引かれるまま外に出る。妖精たちの視線から離れて、少しほっとする。そのまま向き合おうとしたら、膝裏に手を入れられて身体が浮かび上がった。
「ええっ!?」
落ちないように无限大人にしがみ付いて目を閉じる。風が髪を撫でる感覚があった。ぐんぐんと身体が上へと上がっていく。
「この辺りならいいだろう」
頭のすぐ上で声がして、うっすらと目を開ける。目の前は青一色で、雲がすうと流れていく。足元を見下ろせば、地面ははるか下で、ぞっとしてしがみついた。そして、そのしがみついた相手が无限大人であることに気付き、思わず手を放そうとしてしまった。
「おっと」
「きゃあ!」
落ちる、とぎゅっと目を瞑ったけれど、しっかりと支えてくれる腕の中にいて、落下することはなかった。
「もう、誰も聞いていないよ」
「そっ、そうですね……」
目まぐるしく事態が動いて、何が何だかわからない。
ただ、彼がすぐ傍にいて、私を抱きしめてくれていることは確か。
「聞かせてくれるか。さっきの答えを」
ずっと伝えたかった。初めて会った時から胸に秘めていた思い。それを伝えるのは、今しかない。それを理解して、无限大人を見つめる。
「好きです。初めて会った時から、ずっと」
无限大人は笑みを深めて、私の額に額を押し付ける。目を閉じたら、感じられるのは風の音と、无限大人の体温だけだ。
「大好きです……」
伝えられた。それも、願ってもみなかった形で。受け止めてもらえた。无限大人が、私のことを好きだと、言ってくれた。信じられないけれど、今その腕の中にいることがその証に他ならない。
「やっと、言えた……っ」
涙が溢れてきて、咽喉が詰まる。
「これでは、涙を拭ってやれない」
彼はそう言って、ゆっくりと下へおりはじめた。泣いている間に地面が迫り、足の裏が硬い石畳に触れた。无限大人は私を下ろしてから頬に手を伸ばし、言葉通り涙を拭ってくれる。
ふと見ると、みんなが固唾をのんでこちらを見守っていた。无限大人と顔を合わせる。今、泣いているから酷い顔をしているかも。
无限大人が微笑み、私も頬が緩んだ。
「よかったね、小香!」
若水姐姐が涙ながらに言い、雨桐が笑顔で親指を立ててくれた。くすぐったいけれど、二人にいい報告ができたことがとても嬉しい。
「小香」
名前を改めて呼ばれて、胸が甘く疼く。もう、隠さなくてもいいんだ。この人が好きという気持ちを。