77.プレゼント

「すみません。もっと楽しいところにすればよかったですね」
「うん?」
 コーヒーとケーキを頼んで、店員さんが下がったところで気になっていたことを伝える。无限大人は不思議そうな顔をした。
「楽しくないか?」
「いえ! 私は楽しいです! でも、无限大人は、こういうお店興味ないでしょう……?」
「そんなことはないよ。君がどういうものが好きなのか知れるから」
「そうですか……?」
 そんなことを知ってどうなるのかよくわからなかったけれど、こういってくれるなら、これ以上何か言うことはできない。
「これも、君の好みに合うといいんだが」
 そう言いながら、无限大人はポケットから箱を取り出した。そして、それを私の前へ置いた。
「開けてみて」
「はい……?」
 なんだろう、と思って蓋を開けると、中には赤い髪留めが入っていた。
「え……? これ、は……?」
 どうしてこんなものを无限大人が持っているのかわからなくて、訊ねる。
「任務先で見かけたんだ。君に似合うと思って」
「私に? え? ……ええ!?」
 それはつまり、私にくれるということ? 私に似合うと思って?
「任務先でも、私のことを考えてくれたんですか?」
「そうだよ」
 胸がいっぱいになってしまって、わけのわからないことを口走ってしまう。だって、そんな、この髪留めを、无限大人が私に?
「うそ、うれしい。うわ……うれしいです……」
 それ以上は言葉にならなくて、ただただ髪留めに見惚れてしまう。嬉しすぎて、涙が出てきた。目頭に溜まったそれを指先で拭い、髪留めを手に取ってみる。手作りだろうか。素敵な細工だ。
「よければ、つけてみてくれないか」
「はい……!」
 今つけている髪留めを外して、无限大人がくれたものをさっそくつける。後頭部で留めているので自分ではよく見えない。
「どうですか?」
「よかった。思っていた以上に、似合うよ」
「あっ、ありがとうございます……」
 自分で聞いておいて、そう言われて照れてしまった。どうしよう。すごく嬉しい。さっきまでの心配が全部どこかへ吹き飛んでしまった。大好き。その思いが胸いっぱいに溢れてくる。无限大人のこと、大好きだ……。
「うれしいな……すごくうれしいです」
 とにかくこの思いを伝えたくて口を開くけれど、それくらいしか言葉にならない。无限大人は優しく微笑んでくれていた。少しでも、伝わっただろうか。こんなに好きなのに、もっともっと気持ちは溢れてくる。どこまでも、限界なんてないみたいに。
 任務先で立ち寄ったお店でこの髪留めを見て、私を思い出してプレゼントしようと思ってくれたなんて、なんて素敵なことだろう。嬉しすぎて、舞い上がってしまう。私の存在は、彼の中でもそれなりの立ち位置にあるのかと、そう自惚れてもいいんだろうか。誕生日や、何か理由があるわけでもなく、ただ、似合うと思って買ってくれた。こんなに嬉しいことはない。
「どうしよう、あ、何かお返しがしたいです」
 膨らみ続ける思いをどうにかしたくて、そう考える。もらったのだから、お返しをしなくちゃ。
「気にしなくていいよ。私がしたくてしたことだから」
「でも、私も无限大人に何かプレゼントしたいです!」
 そうだ。せっかくだから、何か形の残るものを。でも、无限大人ってどういうものが好みだろうか。
「何か、欲しいものってありますか?」
「欲しいものか」
 聞いては見たけれど、无限大人ってあんまり物欲がなさそう。お金も持ってるだろうし、私がわざわざ買う意味のあるものってなんだろう。
「お店周りながら、欲しいもの決めておいてください」
「はは。わかったよ」
 そうお願いして、私も考えてみることにした。