「どうも、こんにちは」
「こんにちは。小香と申します。よろしくお願いします」
「明俊です。これからよろしくお願いしますね」
カエルに似た見た目の妖精は、丁寧に頭を下げた。彼は、最近別の館からこちらに移ったのだそうだ。背丈は小黒より小さいくらいだろうか。椅子に座ると、足が床に届かず水かきのついた小さな足が床から浮いている。
「変化の術に長けた方がいるとお伺いしましてね。その方に師事するためにこちらに」
「そうだったんですか。変化の術の修行のためにわざわざ?」
「お恥ずかしながら、私はどうも、変化が得手ではなくて……」
脂汗を掻いた頭を水かきのついた手で撫でながら、明俊さんは打ち明けてくれた。
「でも、私は人間が好きなんです。だから、いつか人間の中で生活してみたくて。でもこの見た目では無理でしょう。どうしても変化したいんです」
私は術などの方面はさっぱりなので、変化することがどれくらい大変なのかはわからないけれど、明俊さんは苦労しているようだ。
「人形師の方にも頼んだことがあるのですが、どうも長時間保つことができず……」
「人形師でも難しいんですか」
人形師とは、確か自分以外の妖精の姿を変化させることに長けた妖精だったはずだ。その力を使っても難しいということは、私が思っている以上に変化というのはたいへんな技術なのかもしれない。
「だからやっぱり、自分を変えるしかないと思いまして、教えてくれる人をいろいろ探していたんですが、ようやく見つかったので、こちらに来た次第です」
「どこの会館も、基本的なところは同じですから、きっとすぐに馴染めますよ」
「いやあ、でもやっぱりこちらの方が大きいですね。妖精たちも多いし。勤めてる人間の方も多くて嬉しいですよ」
明俊さんはそういって部屋を見渡す。他の地域では人間の職員がいない会館もあるようだ。他の会館は何箇所か見学したことしかないけれど、地域によって雰囲気が変わっていた。明俊さんは大きな瞳をこちらに向けて熱を込めて微笑んだ。
「あなたともたくさん話したいです。あなたのことをぜひ教えてください」
「私にできることなら、いくらでも」
明俊さんは嬉しそうに目を細めた。
「失礼ですが、外国からいらしたそうで」
「はい、日本からです」
「日本ですか。日本の方とお会いするのは初めてです!」
私が首肯すると、明俊さんは少し声を大きくした。
「日本とはどんな国ですか? 確か島国ですよね。使用言語は違うんですか? 気候は?」
「はい、島国ですよ。言葉は違いますね。日本独自の言葉です。気候は中国と似ているかな」
矢継ぎ早に早口で訊ねてくる明俊さんに少し圧倒されながら答える。その後もいろいろと質問をされて答えているうちに、一時間も経っていた。
「それから……」
「すみません、明俊さん。そろそろ次の約束があるので……」
「あ、そうでしたか」
明俊さんはまだ話したりなそうだったけれど、私が話を切り上げるそぶりをみせると、いそいそと帰り支度をした。
「では、また来ますので。失礼します」
「はい、お待ちしております」
出口まで見送って、次の仕事の用意を始めた。書類を持つたびに、薬指が目に入って、そのたびに胸が高鳴る。彼の想いの証がここにある。いつも目に入る指輪という存在感が、想いの形としてはとてもいいものに思えた。初めに大切な人に指輪を贈ろうと考えた人は、きっと自分の発想にとても満足しただろう。アクセサリー自体普段からつけないタイプだったので、指輪をずっとつけているのは着け心地としてどうだろうと思っていたけれど、まるで気にならないほど軽くて、細いタイプだからかぴたりと嵌っていて、もうずっと以前から着け続けていると思うくらいしっくりきていた。
この指輪を見るたびに、无限大人のことを想う。无限大人は、きっと翡翠の腕輪をつけてくれている。でも、とふと思いついた。
无限大人にも指輪を着けてもらったらどうだろう。
いや、任務中に着けていたら邪魔だろうし、不便かもしれないし。そう考え直そうとしたけれど、一度思いついたことは頭から離れなくなってしまった。指輪を着けることで、どれだけ心が安らぐか知ってしまった。无限大人にも、私の想いを持っていてほしい。腕輪は、気持ちが通じる前に贈ったものだし。
考えは止まらず、どんなものがいいか考えだしてしまった。