『新年快楽!』
その四文字を、思い切って送信する。スタンプまでつけるのはちょっとテンションが高いかな、と悩んでやめておいた。
「ちゃんと送れた?」
ベッドで仰向けになり、通知が鳴り続ける端末をいじりながら雨桐に確認されて、なんとか頷く。
「返信くるといいねえ」
「うん……」
雨桐のところで春節を過ごさせてもらって、たった今、新年を迎えた。知り合いたちにお祝いのメッセージを送ろうとして、无限大人にも送れることに気付いてしまった。それでも送ろうか悩んでいる私に雨桐が発破をかけてくれてようやく送れた。无限大人はどこかで小黒と一緒に新年を迎えているんだろう。端末見てくれるかな、と通知を待っているけれど、なかなか来ない。もしかしたら、もう寝ているかもしれない。
「はー……」
じっと見つめていた画面を閉じて、枕に顔を埋める。
「どうなの、進捗は」
「進捗なんてほどのことはないよ……」
食事に三度も行けるとは思っていなかったから、想像以上の収穫ではある。小黒ともまた話せて楽しかった。このままだったら、また時間の合うときに会うことはできそうだ。
「小香はどうしたいのよ」
「どうって……」
どうって言われても、どうしようもない気がするし、どうにもならない気もする。このまま緩く、職場で軽く会話をして、たまにご飯に行く、そんな関係で続いていけたらと思う。
「伝えないの?」
「つっ……!」
気軽に言われて、顔が真っ赤になってしまった。呼吸が苦しい。
「そんなの無理……」
「なんで」
だって、もし伝えてしまって、こうしてご飯にも行けなくなってしまったらそれは辛い。せっかく小黒とも仲良くなれそうなのに。
うまくいくなんて、万が一にも想像できない。だって、きっと私は彼にとってそういう対象ではないだろうし、そもそも彼はそういうことに興味がなさそうに見える。
ふと、小黒に向ける慈愛に満ちた視線を思い出す。
「あんなふうに、愛してもらえたら……って思っちゃうけど……」
そんなことはありえないんじゃないだろうか、とどうしても悲観してしまう。
「…………うぅ」
「何泣いてるのよー」
「もう……つらい……」
愛してほしい、という欲求があることをもう隠せない。愛されたい。あの人に。ただ私が一方的に好きなだけじゃもう足りない。振り返ってほしい。そう願ってしまう。
「恋してるんだもん。当たり前だよ。そう思うのは」
どうしてこんなに苦しいんだろう。恋ってもっと前向きで、暖かくて、優しいものだと思っていた。手に入らないものに焦がれて、無様に足掻いて、どうしようもない感情に振り回されて。
「そんなの、苦しい……」
「じゃあ、やめる?」
「やめられない……」
もう、この出会いをなかったものになんて、できない。きっと、たとえ叶わないとしても、いつか伝えなければ耐えられない時が来てしまう予感がする。
「无限大人が好き……」
好きという気持ちが溢れすぎて、どうすればいいかわからない。
どうしてこんなに好きになってしまったんだろう。
「私は応援してるよ」
「ありがとう」
雨桐がいてくれてよかった。こんな気持ち、一人では抱えきれない。高望みしていることはわかっている。私が彼に相応しい人間かと聞かれたら、自信を持っては頷けない。それでも、想うだけなら許してほしい。
「あ、ちょっと彼氏と通話するね」
「うん。どうぞ」
雨桐は端末越しに、かわいらしい声を出す。それはやっぱり、友達と話すときと少し違って、微笑ましくなる。両想い、羨ましいな。
无限大人から返信が来たのは、まだ眠っている早朝のことだった。