ここには、いろいろな事情を抱えた妖精が相談に来る。造物系の力がなく、人になれないので館で暮らさざるを得ない妖精、人にはなれるけれど、人間社会に慣れていない妖精。私は主に、妖精が人間社会で暮らせるよう、事情を知る人に縁を繋いだり、新たに受け入れてくれる場所を探したり、そういうことをしてきた。こちらに来てから少し経ったけれど、こちらの妖精たちも、日本とそう悩み事は変わらないように見える。日本よりずっと大きな大陸でも、妖精たちが気楽に暮らせる場所は少ないと知って、切ない気持ちになった。本当なら、私の仕事はない方が妖精たちにとってはいいことなんだと、たまに思う。わざわざ人間の世話にならなくても、妖精たちだけで、彼ららしく暮らせる場所があれば、それが一番だ。けれど、その場所を奪ったのは私たち人間に他ならない。文明を享受している罪悪感が、ときに蘇って、苛まれる。きっと、この痛みはずっと抱えていくのだろう。
「ありがとうございました。香さん。本当に助かったわ」
だから、助けを求めて来た妖精の役に立てて、感謝の言葉をもらえたときには、本当にほっとする。現実には問題が多くて、希望通りに応えられることは少ない。けれど、少しでもその妖精にとっていい方向へいくように、諦めずに探していけば、これ以外にないという道を見付けることができる。理想通りにはいかなくても、いい方法は必ずある。長年働いてきて、最近はそう思えるようになった。
「あなたに相談してよかった」
「少しでも力になれたなら嬉しいです。また何かあったら、訊ねてくださいね」
「ええ。本当にありがとうね」
彼女は何度もお礼を言い、笑顔のまま帰っていった。その姿を見送って、ひとつ胸を撫でおろす。こちらに来て、初めてやり遂げた仕事だ。
「お疲れ様、小香。やったわね」
同僚の雨桐が労ってくれた。彼女とは年が近くて、すぐに打ち解けた。国の違いなのか、彼女は何ごともはっきりと口に出すタイプで、強気な性格だ。そのせいかたまに妖精たちとぶつかることもあるけれど、それも彼らのためを思う心があればこそだ。私は彼女のそういうところを気に入っていた。
「あなたは優しすぎるところがあるから心配していたけど、大丈夫そうね」
「え、そう?」
ぽんと肩を叩かれて、目を丸くする。
「彼らに感情移入しすぎに見えていたから。一人一人にそんなに心を砕いてたら大変だわ。もっと気楽でいいのよ」
「ふふ。そんなことないよ、普通よ」
確かに、仕事を始めたばかりのころは、役に立てない自分に憤り、この仕事に向いてないんじゃないかと落ち込むことが多かった。たくさん辛いこともあったけれど、やっぱり、妖精たちと関わること自体は楽しいことで、彼らの優しさに助けられて、今日まで続けてこられた。その結果、今私はここにいる。
「ここでもっといろんなことを勉強して、もっといい仕事ができるようになりたいわ」
「気合入ってるわね。なんだか私もつられちゃうわ」
お互い顔を見合わせて、吹き出してしまう。せっかくいただいた機会、最大限に活かしたい。
ふと、彼の姿が目に浮かんだ。あの人は、私の理想だ。
あんな風に、人と妖精の架け橋となれたなら。