100.これから
「小香!」 館を歩いていると、後ろから駆け寄ってくる足音がして、振り返る前に腰にどんと衝撃を受けた。少しよろけてから、振り返る。「小黒!」「よかったあ! 戻ってきてくれて!」 小黒は私のスカートを握り締めて涙を目に浮かべていた。私はしゃがん…
夢小説 恋ぞつもりて 羅小黒戦記 色も无き花に香りを染めしより
99.未来へ
唇が触れた瞬間、暖かな想いが胸を満たした。ソファに置いた手に手が重ねられ、そっと包まれる。肩から力が抜けて、身体が彼の方へ傾く。そっと唇が離れ、余韻に身体が微かに震えた。目を開けたら、翡翠の光が目の前にあり、ぼんやりとした私の顔を映してい…
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98.初めての
「どうぞ、あがってください」 玄関を開けて、靴を脱ぎ、スリッパに履き替える。来客用のものを无限大人に用意して、履いてもらう。こちらでは靴を脱ぐ習慣はないけれど、やっぱり履き替えないと変な気持ちになるのでスリッパを履いている。アパートはまだ新…
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97.大好きが溢れる
前の家はここを発つときに引き払ってしまったので、また新たなアパートをこの市の中で探して契約した。前の家とあまり変わらないけれど、少し職場に近くなった。无限大人を迎えにいくため、家を出て、駅に向かう。ちょうどいい位置に駅があったので、待ち合…
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96.甘い声
端末を手に握って、液晶画面を見つめ、そこから動けなくなる。いままで、どうやって電話を掛けていたっけ。无限大人の番号を選んで、通話を押して、呼び出し音を聞いて、相手が電話口に出たらもしもし、と声を掛けて――。 耳元で聞こえた无限大人の声を思…
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95.花満ちて
「小香、聞いてる?」「はい」 雨桐に顔を覗き込まれて、頷いたけれど、雨桐は呆れたように笑った。「聞いてないな」「聞いてたよ」「じゃあ何言ってたか言ってみ」「えっと……」「ほら、聞いてない」「ごめん」 聞いてたつもりだったけれど、雨桐に指摘さ…
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94.空の上で
何を言われたのか、すぐに理解ができなかった。だって、そんな、夢みたいに都合のいいことが現実に起こるわけなんてないのに。「……え?」 なので、馬鹿みたいに聞き返してしまった。无限大人は肩を揺らして笑う。少し離れたところで若水姐姐が見守ってい…
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93.再会、そして
「お帰り、小香。これからよろしくね」「うん。よろしくお願いします」 雨桐や、他の同僚たちは暖かく私を迎え入れてくれた。手続きなどの準備があったため、こちらに戻ってこれたのは1月になっていた。数か月しか離れていなかったのに、なんだか懐かしく感…
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92.本当の願い
日本に帰って二ヶ月が経ち、もうすっかり日常に馴染んでいた。向こうでの一年が、こうしてみると夢だったようにさえ思えてくる。こちらの職場はすぐに私を当たり前のように受け入れてくれ、館にいる妖精たちの顔ぶれも変わらず、今まで通りの日常が戻ってい…
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90.後悔
二人で出かける、と決めたものの、どこへ行くかまでは考えていなかった。彼女の行きたいところへ行きたいと思っていたから。任せてみると、彼女はショッピングモールを提案した。彼女は最初は遠慮気味だったけれど、次第に楽しそうにウィンドショッピングを…
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89.帰国
「また、連絡してよね」 雨桐に手を振り、キャリーバッグを転がして、エントランスへ向かう。 日本へ帰国する日。準備をしているうちにあっという間に残りの日々は過ぎてしまった。若水姐姐や深緑さん、いろいろな人に挨拶をして回ったら、みんな別れを惜し…
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88.別れ
「もっと、あなたと……過ごせたら……って」 やっとの思いで声を絞り出す。これだけで耳まで真っ赤になってしまう。无限大人は、薄く微笑んだ。「……もう、君は十分学んだよ。向こうで、こちらでの経験を活かして欲しい」 无限大人の声は優しく、突き放す…
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