暗香来

第三話 仔

 が故郷の森に帰ってきたのは、秋に入ろうという少し風が冷たくなってきた時期だった。 草木の色が少しずつ褪せてきて、瑞々しさが失せ、枯れた冬へ向かおうとしている。 は故郷の空気を胸いっぱいに吸い込んで、忽然として吐き出した。帰ってきた。今はそ…

第二話 癒

 部屋で書き写しをしていると、誰かが部屋にやってくる足音がして、は手を止めた。「、老君がいらっしゃいましたよ」 が身を寄せている館の館長が、老君を伴って部屋の戸を叩いた。 は筆を置き、戸口まで老君を出迎えに行った。「老君、おいでくださって嬉…

第一話 禍

 しんしんと降る白い花びらのような雪片が、湖の黒い水面に触れてはしゅんと音もなく溶けていく。冷気を帯びた水滴となった雪片はしゅるしゅると水底に落ちていき、光の届かない薄暗闇で塊となっていく。氷を孕んだ霊力は少しずつ形を大きくしていき、しまい…