第三話 仔
が故郷の森に帰ってきたのは、秋に入ろうという少し風が冷たくなってきた時期だった。 草木の色が少しずつ褪せてきて、瑞々しさが失せ、枯れた冬へ向かおうとしている。 は故郷の空気を胸いっぱいに吸い込んで、忽然として吐き出した。帰ってきた。今はそ…
暗香来
第二話 癒
部屋で書き写しをしていると、誰かが部屋にやってくる足音がして、は手を止めた。「、老君がいらっしゃいましたよ」 が身を寄せている館の館長が、老君を伴って部屋の戸を叩いた。 は筆を置き、戸口まで老君を出迎えに行った。「老君、おいでくださって嬉…
暗香来
第一話 禍
しんしんと降る白い花びらのような雪片が、湖の黒い水面に触れてはしゅんと音もなく溶けていく。冷気を帯びた水滴となった雪片はしゅるしゅると水底に落ちていき、光の届かない薄暗闇で塊となっていく。氷を孕んだ霊力は少しずつ形を大きくしていき、しまい…
暗香来
100.これから
「小香!」 館を歩いていると、後ろから駆け寄ってくる足音がして、振り返る前に腰にどんと衝撃を受けた。少しよろけてから、振り返る。「小黒!」「よかったあ! 戻ってきてくれて!」 小黒は私のスカートを握り締めて涙を目に浮かべていた。私はしゃがん…
夢小説 恋ぞつもりて 羅小黒戦記 色も无き花に香りを染めしより
99.未来へ
唇が触れた瞬間、暖かな想いが胸を満たした。ソファに置いた手に手が重ねられ、そっと包まれる。肩から力が抜けて、身体が彼の方へ傾く。そっと唇が離れ、余韻に身体が微かに震えた。目を開けたら、翡翠の光が目の前にあり、ぼんやりとした私の顔を映してい…
夢小説 恋ぞつもりて 羅小黒戦記 色も无き花に香りを染めしより
98.初めての
「どうぞ、あがってください」 玄関を開けて、靴を脱ぎ、スリッパに履き替える。来客用のものを无限大人に用意して、履いてもらう。こちらでは靴を脱ぐ習慣はないけれど、やっぱり履き替えないと変な気持ちになるのでスリッパを履いている。アパートはまだ新…
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97.大好きが溢れる
前の家はここを発つときに引き払ってしまったので、また新たなアパートをこの市の中で探して契約した。前の家とあまり変わらないけれど、少し職場に近くなった。无限大人を迎えにいくため、家を出て、駅に向かう。ちょうどいい位置に駅があったので、待ち合…
夢小説 恋ぞつもりて 羅小黒戦記 色も无き花に香りを染めしより
96.甘い声
端末を手に握って、液晶画面を見つめ、そこから動けなくなる。いままで、どうやって電話を掛けていたっけ。无限大人の番号を選んで、通話を押して、呼び出し音を聞いて、相手が電話口に出たらもしもし、と声を掛けて――。 耳元で聞こえた无限大人の声を思…
夢小説 恋ぞつもりて 羅小黒戦記 色も无き花に香りを染めしより
95.花満ちて
「小香、聞いてる?」「はい」 雨桐に顔を覗き込まれて、頷いたけれど、雨桐は呆れたように笑った。「聞いてないな」「聞いてたよ」「じゃあ何言ってたか言ってみ」「えっと……」「ほら、聞いてない」「ごめん」 聞いてたつもりだったけれど、雨桐に指摘さ…
夢小説 恋ぞつもりて 羅小黒戦記 色も无き花に香りを染めしより
94.空の上で
何を言われたのか、すぐに理解ができなかった。だって、そんな、夢みたいに都合のいいことが現実に起こるわけなんてないのに。「……え?」 なので、馬鹿みたいに聞き返してしまった。无限大人は肩を揺らして笑う。少し離れたところで若水姐姐が見守ってい…
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93.再会、そして
「お帰り、小香。これからよろしくね」「うん。よろしくお願いします」 雨桐や、他の同僚たちは暖かく私を迎え入れてくれた。手続きなどの準備があったため、こちらに戻ってこれたのは1月になっていた。数か月しか離れていなかったのに、なんだか懐かしく感…
夢小説 恋ぞつもりて 羅小黒戦記 色も无き花に香りを染めしより
92.本当の願い
日本に帰って二ヶ月が経ち、もうすっかり日常に馴染んでいた。向こうでの一年が、こうしてみると夢だったようにさえ思えてくる。こちらの職場はすぐに私を当たり前のように受け入れてくれ、館にいる妖精たちの顔ぶれも変わらず、今まで通りの日常が戻ってい…
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