「もっと、あなたと……過ごせたら……って」
やっとの思いで声を絞り出す。これだけで耳まで真っ赤になってしまう。无限大人は、薄く微笑んだ。
「……もう、君は十分学んだよ。向こうで、こちらでの経験を活かして欲しい」
无限大人の声は優しく、突き放すものだった。
「……っ」
十分なんかじゃない、だってまだ、と続けようとしても声が出ない。
「私も小黒も、君と過ごしたことは忘れないだろう。時間を作って、そちらに行くよ。だから……」
无限大人がわずかに目を見開く。涙が零れるのを止められなかった。
「あっ……なんだか、みんなとお別れすると思ったら、寂しくなっちゃって……っ」
慌てて言い訳をしながら、目元を指で何度も拭うけれど、涙は次から次へと溢れてきた。こちらで一緒にいたいと思っていたのは私ばかりで、彼は、やっぱり、私と同じ思いではなかった。違ったんだ。わかっていたのに。期待しても叶わないって。それなのに、浮かれて、勘違いをして、思い込んで。
やっぱり、苦しい。この思いを受け止めてもらえないことが、とても辛い。頭ではわかっていても、心が泣き叫ぶのを止められない。
「ごめんなさい……っ」
食べている途中だったけれど、もう限界だった。立ち上がって、无限大人の方をほとんど見ずに、店を飛び出す。家に帰るまでも泣いて、家に帰っても涙は止まらなかった。服を着替える気力もなく、ベッドに倒れ込み、しゃくりあげる。
无限大人は、私にこちらにいてほしいとは思っていない。帰るべきだと思っている。それがはっきりとわかって、悲しかった。もしかしたら、なんて期待して、馬鹿を見て、自業自得に泣いている。傷ついたなんて烏滸がましい。私が勝手に好きになって、勝手に失恋した、それだけだ。いますぐ逃げ出してしまいたい。この現実から。もう少しだけ夢を見ていたかった。心地よく浸っていたかった。勘違いでも、幸せだった。はっきりさせるなんてしなくてよかったのに。もしかしたらという淡い期待を抱いたままお別れしたなら、きっといい夢だけを見られたのに。欲を出して、失敗した。思っていた以上に、胸が押しつぶされそうに苦しい。嗚咽で咽喉がひきつって、息もできなくなる。
无限大人。
あなたに恋をしたこの一年、幸せでした。
できることなら、もっと夢を見ていたかった。
けれど、結果はわかっていた。
こうなるって、わかっていたんだ。
それでも思いは止められなかった。
膨らんで弾けそうになった思いを抱え続けることはできなかった。
膨らみすぎた思いは破裂して、血を流している。
痛くて痛くて苦しくて辛い。
こんなにも好きになった人は、いままでいなかった。
きっとこれからも、出会えないだろう。
そんな人に出会えた私は、きっと幸せな人なんだろう。
今は痛くて見返せないけれど、たくさんの思い出をもらったから。
いつか、笑顔と共に振り返る日が来ること願っている。
時間が傷を癒してくれるだろうか。
こんなに深く傷ついているのに。
ずっと泣き暮らすのかもしれない。
もう恋もできないかもしれない。
この心の深いところまで、あなたの色が染み込んでいる。
いままで色なんて持たなかった私の心が、あなたの香りでいっぱいになっている。
大好きです。
いまも、気持ちは変わりません。
嫌いになれれば、きっとこの傷みもなくなるのに。
そんなことはできなくて。
この傷みすらも、あなたを愛した証になる。
きっとずっと、抱えて生きていく。
无限大人。あなたのことが、大好きです。
伝えられなかった言葉は、心の中で膨らんで、隙間もなく広がった。