「これでいいだろうか」
无限大人が見せてくれたじゃがいもはとてもきれいに切れていた。
「はい! ばっちりです!」
「次は、たまねぎかな」
「お願いします」
私が剥いたたまねぎを見付けて、无限大人はとんとん、と軽快にカットしていく。この手つきを見ていたら、料理が下手だなんてとても信じられない。小黒の冗談だったりしないかな。
无限大人はささっと残りの野菜も切ってくれて、私はそれらとお肉を炒め、水を足して煮込む。小黒がちぎってくれたレタスにミニトマトなんかを追加してサラダを完成させる。
「あと手伝うことある?」
「あとは煮込むだけだから、できあがるまで座っててね」
「はーい」
ふと気付くと、无限大人が鍋の傍に立っていた。火加減を見てくれるのかな、と思ったら、一気に強火になって、ガスコンロの火が鍋から溢れて飛び出した。
危ない、と叫ぶ前に手が伸びていた。さっとつまみを回して火を止める。无限大人は一歩後ろへ下がった。
「少し、火加減を見ようと思ったのだが」
「……大丈夫です。私が見ますので、无限大人も座っていてください」
「……はい」
少なくとも、火の傍に近づけてはいけないことは理解した。うちのガスコンロ、こんなに火力あったんだ……。「だから言ったのに」と小黒がぼそっと言ったのが聞こえた。
なんとか無事にできあがり、ご飯も炊けたので食卓を整える。お皿はあまり持っていないので、大きさも色も不揃いだ。スプーンは今日買ったプラスチック。急ごしらえだけど、カレーの匂いがそれなりに見せてくれる。
「食べていい?」
「どうぞ」
スプーンを握ってわくわくしている小黒に頷くと、小黒は口を大きく開けて一口食べた。
「んん! おいしい!」
「うん」
无限大人も一口食べて、満足そうに頷いている。よかった。二人の口にあったみたい。私もどきどきしながら食べてみる。昔食べていた味とは少し違うけど、これも美味しい。
「二人に手伝ってもらったから、とても美味しくできました」
「師父も切るのだけは上手だね!」
「だけ、ではないが」
小黒の口ぶりに无限大人は不満そうだ。でも、本当にきれいに切れていた。そのせいか、にんじんが妙に口当たりがいい。
「カレーはやっぱり、大勢で食べるのが一番ですね」
「そうだね!」
たくさん笑って、お腹もいっぱいになって、鍋はほとんど空になった。食器洗いはあとでしようかと思っていたら、无限大人がスポンジを取った。
「片付けくらいはするよ」
「すみません」
无限大人が洗ってくれた食器を、布巾で拭って食器棚に仕舞う。濡れた食器を受け取るとき、並んで作業をしていることを意識してしまって、心臓が揺れた。だって、こんなの、まるで……。
「小黒」
食器を洗い終わった无限大人が小黒に声を掛ける。そういえば静かだなと思って振り返ると、小黒は机に突っ伏して寝てしまっていた。
「お腹いっぱいで、寝ちゃったんですね」
「ぐっすりだな」
起こしてしまうのが忍びないほど、気持ちよさそうに眠っている。
「このあとは館に戻るんですか?」
「いや、ホテルを取ってある」
小黒の寝顔を眺めながら、ためらいつつも、口にする。
「……うちは、ぜんぜん、何時でも、いてくださって大丈夫ですから……」
一緒にいるだけでどきどきして胸が苦しくなるけれど、このままお別れしてしまうのも寂しくて、引き留めるようなことを言ってしまう。
无限大人は小声で答えた。
「……では、もう少しだけ」