57.みんなでお料理

「どれ買うの?」
 小黒が率先して売り場を回り、无限大人がカゴを持ってくれる。カレーの材料を一緒に買って、うちで食べることになってしまった。二回目だからもう慣れたかというとそんなことはもちろんない。しかも買い物まで一緒にできるなんて、これって、なんかもう、楽しすぎてだめです。
「にんじんはまだあったから、じゃがいもと、たまねぎと……」
 私が材料を伝えると、小黒が手を伸ばして食材を取り、无限大人の持つカゴに放り込む。普段は二人で一緒に買い物をしてるんだろうかと考えて微笑ましくなった。
「カレールーは……これがいいかな」
 いくつか並んでいるのを矯めつ眇めつして選ぶ。やっぱり日本のものとはちょっと違っているようだ。美味しいといいんだけど。
「他には何買う?」
「これで全部だよ」
「では会計をしてこよう」
「あ、私が」
「ご馳走になるんだ、ここは私が持つよ」
 无限大人はさも当たり前だというようにカゴを持ってレジにいってしまった。申し訳なく思いつつ、小黒とレジのそばで待つ。会計が終わった商品を无限大人と小黒が袋詰めしてくれた。さらに二人で手分けして持ってくれるので、私は手持ち無沙汰になってしまう。无限大人は執行人だし、年長者だし、私よりずっと偉い立場の人なのに、それを鼻に掛けずとても気安く接してくれる。だから、こんなに気持ちが膨らんでしまったのかもしれない。だって、手を伸ばせば届きそうな錯覚をしてしまうから。本当なら、雲の上の人なのに。そんな人が、私の作ったカレーを食べたいと言ってくれている。にわかには信じられないことだった。
「ぼく、お腹空いてるからいっぱい食べるよ! いっぱい作ってね!」
 私と无限大人を繋いでくれたひとつは、間違いなく小黒だ。小黒が屈託なく私と親しくしてくれているから。それに、若水姐姐が小黒と出会って无限大人は変わったとも言っていた。もし、小黒より先に私が出会っていたとしたら、こんな風な関係になれていたかどうか自信がない。小黒と出会う前の无限大人は、どんな人だったんだろう。
「私もおかわりをする予定だ」
 无限大人が小黒に張り合うようにそう言うのでおかしくなってしまう。
「ふふ。うちのお鍋で足りるかなぁ」
 カレーとサラダの材料は買ったけれど、もう一品足してもよかったかもしれない。二人ともよく食べるから。冷蔵庫にはあまり余剰がなかったはず。パンくらいはあったかな。いざとなったらそれで勘弁してもらおう。
 うちについて、手を洗い、さっそく料理の準備をする。エプロンをしていると、二人も腕まくりをして並んで待っていた。
「ぼくも手伝うよ!」
「切るのは任せてくれ」
「いいんですか?」
 小黒はまだしも、まさか无限大人までそう言ってくれるとは思わず困ってしまう。
「小香、師父には切る以外のこと任せちゃだめだからね」
 しかも、小黒は真顔でそう念を押してきた。切るのは任せて大丈夫なのかな……。
「大丈夫だ」
 无限大人の表情には自信が満ちている。まあ、カレーだし、そうそう失敗することはないはず。
「では、无限大人はじゃがいもを切ってください。小黒は、レタスをちぎってくれる?」
「わかった!」
「承知した」
 いい返事をする二人に食材を託して、私はお米を図って洗う。小さな台所だから私一人なら充分な広さだけれど、成人男性一人増えただけでずいぶん窮屈に感じてしまう。
「小香、どれくらいの大きさにすればいい?」
「剥くの早いですね……! ええと、貸してください」
 たまねぎを剥く手を止めて、无限大人から包丁を借りる。そのとき、手が当たってしまった。すぐ隣に无限大人が立っているので、とても距離が近い。息遣いが聞こえてきそうだ。
「あの、これくらいに……」
 どきどきする心臓を抑えるのに苦心しながら、一個を切って見せる。
「わかった」
 无限大人が包丁を受け取るため、私の手の上に手を被せてくる。ああ、倒れてしまいそう。