休みの日、買い物に出かけていると電話が掛かってきた。无限大人からだ。どきどきしながら電話に出ると、元気な声が耳に飛び込んで来た。
『小香! 今日お休み? 今何してるの?』
「小黒? 今出かけてるよ」
『ほんと? ぼくたちも出かけてるんだ! 小香ちの近くに来たから、小香のこと思い出して電話したの!』
「そうなの? 嬉しいな。今は商店街で買い物してるんだけど」
『師父がね、どこかでお茶しないかって』
「うん、いいよ」
近くにある大きいレストランの名前を伝えて、そこで落ち合うことにした。休みの日に、私のことを思い出して連絡してもらえるなんて、とても嬉しい。店の前には、すでに无限大人と小黒が待っていた。
「お待たせしました」
「突然声を掛けてすまないな」
「いえ。嬉しいです!」
迷惑だなんて微塵も思っていないことを伝えるために、大きめの声ではっきりと主張する。小黒が早く中へ入ろうと私の手を引っ張った。最近は暑い日が増えて来たから、冷房の効いた店内に入ると汗が引いて気持ちいい。
「小香、何食べる?」
「どうしようかな。甘いもの食べたいな」
小黒が広げたメニューを一緒に覗き込む。无限大人は飲み物だけを頼んでいた。
「今日はね、公園で遊んできたんだよ」
小黒は何をして遊んだのか、どれだけ楽しかったか、事細かに教えてくれる。
「水で地面に文字書いてる人がいたんだけど、師父くらい上手だった!」
「習字してる人たまにいるよね。小黒はもう字書けるの?」
「う……練習中……」
「えらいね! 修行もしてるんでしょう? 文武両道だ」
「へへ……!」
妖精でも、人間社会の中で生活するならある程度は勉強も必要だろう。学校へ行くことはないだろうけれど、文字が読めたり、算数ができればきっと便利だ。
「小香は日本語? っていうの使ってるんでしょ。どう違うの?」
「漢字使うのは一緒だけど、他にひらがなとカタカナがあるよ」
持っていたメモ帳に、ペンで書いてみせると、小黒は目と口を丸くしておお、と関心した。
「へんな字だね!」
「あはは」
私と小黒が話しているのを、无限大人は静かに聞いている。お泊りをしてから、小黒は前より気安く接してくれるようになったと感じる。若水姐姐も懐いてると言ってくれていたけれど、そうなら嬉しい。无限大人への気持ちが知られているのが少し気がかりだけれど、それも嫌だと思っているわけではないみたいだから、大丈夫かな……。でも、自分では結構隠しているつもりだけど、小黒に知られてしまうくらいだから、やっぱりちょっとわかりやすい行動をしてしまっているのかも……。とはいえ、好きじゃない、という態度を取るのはとても難しいし、素っ気ない振りはやっぱりできない。
声を掛けてもらったら嬉しいし、話していたら見つめてしまうし、笑顔になってしまうし……。そう考えていたらまた知られてしまってないか不安になってきた。そのうえで今の態度だとしたら。……怖くなってきたからこれ以上考えるのはやめよう。
「来週、休みが取れそうなんだが」
私と小黒の話が途切れたところで、无限大人が口を開いた。
「上海へ行くのはどうかと思っているんだが」
「上海、いいですね。行きたいです!」
さっき考えていたことがすぐにどこかへ行ってしまった。即答しすぎたかもしれない。だって、出かける約束ができるのが嬉しすぎる。无限大人は私の返事に笑みを浮かべて、詳しい予定を話しはじめた。行く先を決めて、お店を出る。
「小香、このあとどうするの?」
「夕飯の買い物だよ」
「お夕飯なに?」
「カレーにしようかなって思ってる」
「カレー!?」
小黒の目が輝いた。そして、无限大人を振り返る。无限大人は私を見た。……これは、つまりそういう流れ?