一通り周って、池の傍に行くと、フラミンゴの形をしたベンチがあった。そこがフォトスポットとなっているようで、人が集まっている。家族連れもいるけれど、カップルの方が目立つかも。
私たちの傍にいたカップルは指を絡め合って、身体を密着させて人目も憚らずいちゃついている。ちょっと気まずい。小黒がなんだか不思議そうに二人を見ているので、さり気なく手を引いて、あっちに鳥がいるよ、と目を逸らす。
「飲み物を買ってこよう」
无限大人は私たちに何が飲みたいか聞いてくれるので、甘えることにして、お願いする。小黒とは普通のベンチに座って待つことにした。
「あと周ってないとこあったかな」
「ねえ、小香」
「ん?」
パンフレットを広げながら、他に行く場所があるか確認していると、小黒が質問を投げてきた。
「師父のこと、好きなの?」
「えっ」
あやうくパンフレットを破ってしまうところだった。隣を見ると、小黒は真面目な顔をして、くりっとした目を向けてきた。以前、訊ねられたときのような無邪気さとは違うものを感じて、すぐに答えられなくて、言葉に詰まる。
小黒は周囲にいるカップルを見て、あんなふうに、と言った。
「人間の男と女は、恋人だっけ、ふうふ? だっけ、そういうのになるんでしょ。小香は、師父とそうなりたいの?」
まっすぐな問いかけに、逃げ道を塞がれてしまった。もう、尊敬してる、なんて誤魔化しはきかない。なにより、小黒に嘘はつきたくない。
「そうだよ。……私は、无限大人のことが好き」
思っていたより、落ち着いて言葉にできた。小黒に正直に伝えようと思ったから、照れるより冷静さが勝ったんだろう。
「……そっか」
小黒はそう呟くと、ぱっとベンチから下りて、池の方へ向かった。傍でしゃがんで、水面を見下ろす。落ちたら危ない、と思って私もその後を追いかける。小さな石を拾って水に投げ入れる小黒の隣にしゃがんで、続けた。
「无限大人には、内緒にしてね」
「うん。いいよ」
そのうちに无限大人が戻ってきて、三人でベンチに座って飲み物で咽喉を潤した。小黒の様子は元に戻ったと思う。
どうして、小黒はあんなことを聞いたんだろう。いつ気付かれたんだろうか。今日は、ちゃんと振る舞えてたと思うんだけれど……。桜の花の香りを嗅いだ時、だろうか。とても近すぎて、顔に出てたのかもしれない。もしかして、无限大人にも気付かれた? とどきっとして様子を伺うけれど、大丈夫そう。ずっと変わらない態度で接してくれる。
告白しなくても、思いが伝わってしまうことって、あるんだろうか。そう思うと、急に不安になってくる。だって、もし知られてしまって、距離を取られてしまったらすごく悲しい。だからやっぱり、知られないようにしないといけない。まだ、私たちの縁は浅いと思う。これから深めていきたいとは願っているけれど、果たしてどうやったらこれ以上親密になれるのか、わからない。
小黒は、私の気持ちを知って、どう思っただろうか。まだ小さいけれど、ちゃんと恋人や夫婦という言葉を知っていた。妖精にはない概念だから、无限大人と生活するようになって知ったんだろう。
恋人。夫婦。そんなの、想像もできない。ただ好きという気持ちが膨らんでいくのに翻弄されて、抑えておくだけで精いっぱいだ。
もし夫婦になったら、私は小黒にとって何になるだろう。何かになれるだろうか。シングルファーザーに恋した人の気持ちってこんなだろうか。小黒は、子供じゃなくて弟子だけれど……。でもやっぱりそれだけじゃなくて、とてもかけがえのない人として接しているのは伝わってくる。无限大人も、小黒のことを大事にしている。
妖精だって、まだ子供だ。まだまだ、きっと保護者が必要な時期だ。一緒に出かけて、それを感じた。无限大人も、それをわかってる。私一人浮かれてしまって、妙に恥ずかしくなってきた。
やっぱり、隠そう。こんな想い、知られたくない。
小黒にだって、知られるべきじゃなかった。迂闊だった。これからはもっと気を付けて行動しないといけない。
でも、できるだろうか。それでもまだ、彼と会えなくなることが耐えられないと感じてる。いっそ、諦められればいいのかな。
諦められるのなら。
それはできないと、即答する自分がいる。
恋って、難しい。ただ好きなだけじゃ、いられなくなってしまうから。