休みの日、无限大人と小黒の三人で長寿麺を作ることになった。本当は无限大人が作ろうと言ってくれたのだけれど、小黒が私も一緒に作ってほしいと頑として言うので、うちに来てもらって作ることになった。私も无限大人だけに任せるのはよくない気がしたので、小黒のお願いにすぐに乗った。
「まずは生地を作りましょう」
薄力粉と強力粉と塩をボウルに振るい入れて、水を加えながら混ぜる。菜箸である程度まとめたら、无限大人に生地を捏ねてもらった。捏ねる手つきは力強く、表情は真剣そのもので、鋭い視線は生地の変化を見逃さないというようだ。おかげでふっくらときれいに生地がまとまった。
捏ね終わったら、濡れ布巾をかけて一時間ほど寝かせる。その間にお茶を淹れて、話しながら待つことにした。
「日本ではね、誕生日のお祝いにケーキを食べるの」
「へえ。いいなあ。ケーキ食べたい!」
「プレゼントを贈るのはこちらと一緒かな」
「それも、最近の風習だよ。近頃はいろいろと変わってきている」
无限大人がそういうとなんだか厳かな時の流れを感じた。无限大人は、時代の変化をその目で直に見てきた人なんだ。また寿命の違いを意識してしまう。でも今日は、楽しい話をしたい。
「でも、最近はこんなにしっかりとお祝いしてもらうことなかったから、嬉しいです」
大人になると時間の流れが速く感じるようになり、誕生日もそれほど特別な日ではなくなった。だからこうしてちゃんと祝ってもらうのは少し面映ゆい。
「この日に君が生まれてくれたからこうして今一緒にいられるんだ。おめでたいことだよ」
无限大人はさらりとそんなことを言う。おおげさです、と頬が赤くなってしまった。
「ぼくも小香に会えてよかったって思うよ」
「私もだよ、小黒。无限大人」
小黒と手を握り合って、にこりと微笑む。二人とも、純粋に想いを伝えてくれるからこちらも素直に受け取って、向かい合うことができる。思い切ってこちらに来てよかった。日本も大好きだけれど、新たな世界が広がったうえに、一生を共にしたいと思える人に出会えた。一生、と考えて、指輪に視線を落とす。この指輪は、その証だと思っていいんだろうか。聞きたいけれど、尻込みしてしまう。本当にただ誕生日プレゼントだというだけだとしたら。それでも、もちろん嬉しいけれど。
「そろそろいい時間だな」
无限大人の言葉にはっとして、時計を見るとちょうど生地を寝かせる時間が過ぎるところだった。
「じゃあ、長寿麺作りを再開しましょう」
次は生地を麺棒で伸ばす。小黒がやってみたいというのである程度伸ばしてもらう。打ち粉をして、小黒の前に生地を置く。小黒は椅子の上に立って、身を乗り出すようにして気合をいれて生地の上に乗せた綿棒をぐっと押した。粉がぶわっと巻き上がり、小黒の鼻や髪に白くまぶされた。
「ふう、これくらい?」
小黒が腕で鼻を拭うとさらに粉が頬まで広がり、私は笑いながら布巾で拭ってやる。
「上手だね、小黒。あとは无限大人にきれいにしてもらおう」
无限大人は小黒から綿棒を受け取り、生地の厚みを均一にして、なめらかにしてくれた。
その生地を私が細く切り、切った麺の両端を持ってさらに伸ばす。伸ばした麺を沸騰したお湯に入れて、茹でていく。麺をほぐしながら、スープを作る。无限大人に青梗菜を切ってもらい、スープに入れて茹でる。最後に卵を入れて、器に盛って完成だ。
「はい、できました!」
初めて作ったけれど、それらしくなったと思う。三人分の丼に盛った麺は青梗菜と卵の色が鮮やかでなかなか見栄えがする。
「わあい! 食べよう!」
小黒がさっそくお箸を掴む。
私もエプロンを外して椅子に座り、どきどきしながら、一口啜る。麺はもちもちとしてこしがあり、とても美味しかった。スープも塩加減がばっちりだ。ほっとして自然と笑みが浮かぶ。これなら二人に食べてもらっても大丈夫だろう。
「よかった、美味しくできた」
「やっぱり小香がいると美味しい料理になるね!」
「本当なら誕生日なのだから私が作りたかったが、一緒に作るのもいいな」
无限大人も微妙に心残りがあるようではあったけれど、そう言ってくれた。
「師父は小香がいないところで料理しちゃダメ」
「む……」
小黒の厳しい言葉に、むっとしつつも言い返さない无限大人が面白くて、笑ってしまう。そんな私を君までそんなことを、とうらめしそうに无限大人は見てきたけれど、小黒がここまで言うのだから仕方ない。
小黒と无限大人のやりとりが面白くて、その日は笑いっぱなしだった。前よりもずっと、ここにいることが自然に感じるようになった気がする。それが嬉しい。二人が私を受け入れてくれている。そう思うと、胸が満たされた。